これまでの2回の投稿では、CPUアーキテクチャの歴史(x86, x64)とARMの台頭について深く探求しました。今日は、このすべてのCPU話のクライマックスに立つ、最近最も注目を集めている企業、つまりエヌビディア(NVIDIA)に関する話をしてみたいと思います。
エヌビディアは長い間、GPU(グラフィック処理装置)市場の絶対的な王者として君臨してきました。しかし最近、彼らは単にGPUを超えてCPU市場にも影響力を拡大し、コンピューティングの未来を新たに描き始めています。果たしてエヌビディアはなぜCPUを作ろうとしているのか、そしてこれがAI時代にどのような意味を持つのか、一緒に見ていきましょう。
1. エヌビディアは元々GPU会社じゃなかったの?CPUと何の関係があるの?
はい、その通りです。エヌビディアは主にGeForce(ゲーミング)やQuadro/RTX(プロ用)、そして最近ではデータセンター用A/HシリーズのGPUで知られています。GPUはCPUとは異なる方法で演算を処理します。
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CPU:順序立てて複雑な単一作業を迅速かつ効率的に処理することに特化しています。(例:オペレーティングシステムの実行、文書作業、ウェブブラウジング)
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GPU:数千の小さなコアを並行して同時に動作させることで、単純だが反復的な大規模演算を処理するのに非常に強力です。(例:グラフィックレンダリング、物理シミュレーション、そして人工知能の学習/推論)
長い間、CPUとGPUは互いの役割を補完しながらコンピュータシステムを構成してきました。CPUが全体システムの「脳」として指揮を執り、GPUがグラフィックや特定の並列演算が必要な作業を「専門家」として処理する形でした。
しかし、人工知能(AI)時代が到来するにつれ、彼らの関係に変化が生じ始めました。膨大なデータを学習し、複雑な神経網を計算する必要があるAI作業は、GPUの並列処理能力を抜きにはほぼ不可能でした。エヌビディアはGPUのこの潜在力を早くも見抜きCUDA(クーダ)という並列コンピューティングプラットフォームを開発して、GPUが単なるグラフィックカードに留まらず、汎用的な計算装置として活用される道を開きました。
2. GPUの限界とCPUの必要性:『データ移動』の非効率
GPUがAI演算の要になったことは明らかですが、CPUとGPU間のデータ移動は依然としてボトルネックを引き起こす原因となっています。
- CPU ↔ GPUデータ転送:AIモデルの学習や推論過程で、CPUはデータを準備し、GPUはそのデータを受け取って演算後、再びCPUに結果を送る過程を繰り返します。このデータ移動過程は思ったよりも多くの時間と電力を消費します。CPUとGPUが物理的に離れており、データ転送に使用されるPCIe(PCI Express)などのインターフェイスは、GPUの膨大な処理速度に追いつかない場合が発生します。
エヌビディアはこうした限界を克服し、AI時代に最適化された計算ソリューションを提供するために、GPUの隣に置かれる独自CPUの必要性を感じ始めました。GPUがいくら優れていても、GPUを効果的にサポートしデータを迅速にやり取りできるCPUがなければ、全体システムの効率性は落ちざるを得ないからです。
3. エヌビディアのCPU登場:ARMベースの「Grace」プロセッサ
エヌビディアはx86 CPUを直接開発する代わりに、電力効率が高くカスタマイズしやすいARMアーキテクチャに注目しました。そして2022年、データセンター用CPUである「NVIDIA Grace(グレース)」を発表し、CPU市場への進出を正式化しました。
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ARM Neoverseベース:Grace CPUはARMのサーバー用コアである「Neoverse」を基に設計されています。これはエヌビディアが直接CPUコア設計に乗り出すのではなく、ARMの検証された技術を活用することで迅速に市場に入り込む戦略として解釈されます。
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『スーパーチップ』戦略の核心:Grace CPUの真の強みは、単独CPUとしての性能を超えて、エヌビディアのGPUと『スーパーチップ』の形で結合された時に発揮されます。
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Grace Hopper Superchip:Grace CPUと強力なH100 Hopper GPUをNVLink-C2Cという超高速インターコネクトで接続した製品です。この接続は、既存のPCIeよりもはるかに高速な帯域幅(毎秒900GB以上)を提供し、CPUとGPU間のデータボトルネックを最小限に抑えます。
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Grace Blackwell Superchip:最新のBlackwell GPUアーキテクチャとGrace CPUを組み合わせた形で、次世代AIおよびHPC(高性能コンピューティング)ワークロード向けに設計されています。
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この『スーパーチップ』戦略は、エヌビディアがGPU演算に最適化されたカスタムCPUを直接提供することで、既存のx86 CPUとエヌビディアGPUを別々に使用するよりもはるかに効率的で強力な統合システムを構築しようというビジョンを示しています。
4. CPU市場の激変と未来展望
エヌビディアのGrace CPUの登場は、従来のx86(インテル、AMD)とARM(クアルコム、アップルなど)に分かれていたCPU市場に新たな競争構図を形成しています。
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AI時代のための最適化:エヌビディアは汎用CPU市場よりもAIおよびHPCワークロードに特化したデータセンターCPUに集中しています。これは世界中で爆発的に増加するAIコンピューティング需要に対応するための戦略です。
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競争と協力:インテルとAMDもまたAIアクセラレーター市場でエヌビディアと競争しつつ、一方でエヌビディアのGPUとうまく作動するx86 CPUを引き続き開発しなければならない複雑な関係にあります。エヌビディアは条件によってインテルのファウンドリサービスを利用する可能性があるとの噂もあり、技術開発と市場先取りのためのさまざまな協力および競争モデルが現れています。
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統合ソリューションの重要性:今後は単に個々の部品の性能を超え、CPU、GPU、メモリ、インターコネクトがいかに有機的に統合されて特定のワークロードに最適な性能を発揮するかがより重要になってくるでしょう。エヌビディアの『スーパーチップ』戦略は、このような統合ソリューションの代表的な例です。
おわりに
今日はGPU市場の巨人エヌビディアがなぜCPU市場に進出したのか、そして『Grace』CPUと『スーパーチップ』戦略を通じてAI時代のコンピューティングパラダイムをどのように変えようとしているのかを見てきました。CPUとGPUが互いの役割を補完しながら発展してきた歴史を超えて、今やより密接に結合され、統合される方向に進んでいることが分かります。
エヌビディアのCPU挑戦が今後どのような結果と変化をもたらすのか、従来のx86の強者たちはどう対応するのか、そして最終的にAIコンピューティングの未来はどのような姿になるのか、注目されるところです。次回の投稿では、また別の興味深い技術の話でお会いしましょう。ありがとうございました!
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